黒衣の天使





人には、いろいろな「種類」がある。
人種、という区分ではなく。
貧しい人、普通の学生、主婦、サラリーマン、上流家庭、などという区分である。
いろいろな種類の人間の中で、特に嫌いなのは「大富豪」の部類だ。
さらにその中でも、すべてを手に入れようと考える人間は最悪である。
何、「お前は誰なんだ?」だと?
そんなことも知らないのかい?
とはいっても、私は名前を持たないのだよ。
いつも役職名で呼ばれているからね。
生命を与える、「白衣の天使」。
生命を奪う、「黒衣の天使」。
そう、生命を扱っているのだよ。
何、「お前は何なんだ?」だと?
失礼な言い方をするな。
私は、生命を司る神。

今日も、全人類の生命をチェックする。
嫌でも、ある男に目がいってしまう。
世界一の大富豪、と呼ばれている男だ。
自分が欲しいものは、すべて手に入れる。
そのための手段は、選ぶことはない。
気に入らないものは、すべて排除する。
今、私がこの世で一番嫌いな人物である。
運命を司る神も驚くほどの強運の持ち主。
生命を奪おうとしても、いまだに奪えてはいない。
それがどうしてかは、わからない。
チャンスがあれば、必ず奪ってやる。
なるべく、早く。
あの男が生き続けている間にも、たくさんの貧しい人々が死んでいく。
と、そのとき、あの男は、許されざる一言を言い放った。
「永遠の命が、私は欲しいのだよ」
その言葉を聞き、私は怒りに震えた。
自然の摂理を無視する、その姿勢。
腹立たしい。
死ぬことを告げるのは、対象者が眠っているときでないとできない。
眠るまで待つ間にも、あの男は生き、貧しい人々は死んでいく。

夜になり、やっとあの男が寝た。
私は、あの男の夢の中へ入り込む。
夢の中で、あの男は不老不死になっていた。
そこまで、永遠の命を望むのか。
満足げに、夢の世界を泳いでいる。
気に入らない。
夢の世界を、私は一瞬で暗くした。
あの男は、ひどく困惑した。
そして、私は告げた。
「お前は、今日から一日のうちに死ぬのだ」
「誰だ、貴様は。ここへ来い、殺してやる」
私は、言うとおりに出てやった。
「貴様か、ふざけた奴は」
憎々しげな顔で、私を睨み付ける。
「別にふざけてなどいない。私は、『黒衣の天使』。死神、とも呼ばれているかな」
「私の夢を返せ。元に戻せ」
「その傲慢な態度が、気に食わないんだよ」
「ふざけたことを言うな。元に戻せ、と言っておるのだ」
自分の思うようにいかないのが、気に入らないようだ。
ついに、怒鳴るまでになった。
「早くしろ!でないと、殺してやるぞ!」
「これから死ぬ奴に、夢などは無用だ。もう、今から死ね」
そう言った直後、奴は苦しみだす。
ここは夢の中だが、実際に苦しんでいるだろう。
苦しむ様子を眺めつつ、魂を手で掴む。
苦しみが、さらに増す。
その苦しみで、力が弱まった隙に、魂を引き抜く。
これで、やっとあの男は死んだ。
これで、やっと大仕事は終わった。

あの男が死んだせいで、いろいろと多くの影響があった。
しかし、これでいいのだ。
自然の摂理を、変えてはいけない。
人は、神の領域に入ることは許されないのだ。
入ろうとした者は…。
私が、全て、消す。





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