メアリーハウス(オリジナル版)





そこのあなた。
こんな誰も居ないところで何をしているのですか?
特に理由はない……?私と同じですね。
暇でしたら、少し面白い話をしましょうか。なに、お金はとりませんよ。






ある小さな町のはずれの高台の上に、「メアリーハウス」と呼ばれている家がありました。
そこには、10代半ばの女の子が8人住んでいました。
彼女らは全員孤児で、育ててくれたおばさんも数年前に亡くなっていました。
そして、彼女らは全員、メアリーという名前でした。
そこに、ある日1人の男が訪ねてきました。
この家からだと見晴らしが良さそうなのでここで絵を描かせてくれないか、ということでした。
彼女らは、悩みました。知らない男を家に入れてもいいのか。
少しの間相談をして、彼女らは見晴らしのいいテラスを彼に貸してあげることにしました。
彼は旅人でした。
絵を描き終えてから彼は、お礼に彼女らに旅の話を聞かせました。
そして、夜が更けて彼が家を出ようとした時、彼女らはこう言いました。
「もっと旅の話が聞きたいから、また明日も来てくださいませんか?」
彼は、しばらくその町に滞在することにしました。
そして、毎日のように彼女らの元を訪ね、絵を描いたり旅の話をしたりしました。
どうやら、旅の話を聴くうちに、彼女らは彼のことが好きになったようでした。そう、8人全員が。
そして、これが事件を引き起こしたのです。
それから数週間たったある日、彼から警察に連絡がありました。
「家で7人が死んでいる」と。
警察が駆けつけると、それはもう言えないほどの惨状が広がっていました。
家の中は血で染まっていました。
一人は、顔がわからないほどグチャグチャに切りつけられていました。
一人は、喉を穴が開くほど突かれていました。
一人は、内臓が出てしまうほど腹部を何回も刺されていました。
一人は、すべての指が切断されていました。
一人は、こめかみを深々と刺されていました。
一人は、背中を血で染めるほど何回も刺されていました。
全員、心臓を一突きされていました。どうやら、これが致命傷のようでした。
そして、最後に一人。
手首と首元――つまりは、頚動脈――を切って死んでいました。






なに?最後に死んだ彼女が犯人だって?
そう簡単に解決する話だったら、面白くもなんともないじゃないか。
だったら、残った1人が犯人だって?
それも、面白い答えじゃないな。
だって彼女は、目が見えないんだから。






当初は、簡単に解決するものと思われていた。
しかし、そうではなかった。
最後に死んだ彼女は、殺されたことが分かった。
自殺とは、切りつけたときの角度が違うらしい。私には良くは分からないが。
残る1人は目が見えない。
旅人も疑われたが、事件の時に宿にいたことが分かった。
目が見えない彼女の目が見えていたら、この事件は簡単に解決するのに。
旅人が宿にいなかったら、この事件は簡単になるはずなのに。
事件は、迷宮入りするんだ。






なに?実は彼女の目は見えていたんじゃないのか、だって?
ほう。あなたはなかなか勘が鋭いようだ。
そう、彼女の目は見えていたんですよ。
でも、警察がどこからかそれを知ったときには、彼女はあの家からいなくなっていたんですよ。
今頃は、何処かの土の中に埋まってるでしょうね。
何でそう言い切れるかって?
だって、埋めたのはこの私ですから。
ははは、驚いてますね。その顔が見たかったのですよ。
さて、この事件の真相はこういうわけですよ。
彼女たち8人が私のことを好いてくれているのは知っていました。全員から、別々に私に言ってきたんですから。そして、目が見えないはずの彼女の目が見えていたことも、彼女から打ち明けられました。
そこで、宿に帰る前に私は彼女にこう言ったのですよ。
「どうやら、私は8人全員から好かれているらしい。そして、残りの7人は、自分以外の7人を殺そうと計画しているみたいだ。私を独り占めするために、ね。だけど私は、君のことが一番好きなんだ。君には、生きて欲しい。一度宿に戻るけど、またすぐに来るから。そのときに、7人を殺そう」
宿屋の主人を買収しておいて、すぐに彼女の元に向かったさ。
家に入ると、血の臭いでむせ返るほどだった。そう、あれだけの惨状を彼女1人でやったのさ。
月明かりが差し込む薄暗い部屋の中で、彼女は血に濡れて立っていたんだ。
目に焼きついて離れないほど、とても素晴らしい「絵」だったよ。あれは、さすがに私には描けないだろう。
でも、あんな惨状になるほどやるとは思わなかったけどね。
大体は思ったとおりだった。
いや、思った以上かな。
だったらなぜ最後に彼女を殺したのか、って?
あなたも旅をすればきっと分かるだろうが。
旅をするのに「愛」というのは一番邪魔なものなんだよ。
まあ、愛されることも愛することも別に嫌いじゃないんだけどね。
一緒に旅ができないなら、殺してあげるのが最善の選択だよ。









さて、あなたは私の秘密を知ってしまった。

今すぐ、彼女らの元に送ってあげるからね。

なに、痛みなどないよ。すぐ、楽になるさ。



さあ、おやすみ。





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