正義の味方

第1話   正義の味方、参上。





とある海辺の倉庫にて。現在、時刻は午後9時前。
「きゃーーーーっ!!」
甲高い悲鳴を出したのは、スーツを着た女性。どうしてこんな時間にこんな所へいるのか知らないが、どうやら大変な目にあっている様子。
「へっへっへっへっ。そこのお嬢さん、俺といいことしようぜぇ」
テレビドラマの悪党でも言いそうにないセリフを平然と女性に向かって言う男が一人。どうやら、男にからまれているようだ。
「絶っっっっっっ対に嫌よ。アンタみたいに、バカで、アホで、マヌケで、能無しで、生きている価値のない、最低の男なんかとする訳ないじゃない」
見た目は可愛い人なのに、意外と言うことが酷いですね、この女性は。
「な、な、なにおーぅ。よくも言ってくれたな。生きている価値のない、とまで言ったな。もう、ボクちゃん許せないー」
怒ったせいで1人称が変わったとはいえ、いくらなんでも「ボクちゃん」は変わりすぎだろう。
そんなこんなで、怒った男は女性を追いかけ始めた。ちょうどその時…。
「待てい、可愛らしい方を追いかけるそこの悪党め!正義の味方である私が来たからには彼女には手を出させないぞ」
正義の味方のようなセリフを平然と言い放つ男が、また一人現れた。暗闇からヒーローのごとく出てきて、正義の味方を名乗っている。いかにも、胡散臭い。
「正義の味方、だとー?」
「うわ、また変なのが出てきた」
「変なの、ではないですよ、お嬢さん。私は、正義の味方です。嘘でもなんでもないですよ、本当に私は正義の味方ですから。困っている人がいれば、飛んで駆けつける。助けを求められれば、すぐさま参上する。私は正義の味方なのですから、そうするのが私の使命であって私の生きがいなのですから。そう、私が正義の味方をやろうと思ったのはかれこれ20年前。初めてヒーロー番組を見たときでした。あの格好良さといったら、もう言葉にも言い表せないくらいで…。それから、私は猛特訓を積んで、そして現在は正義の味方をしているのですよ」
どうやら、「ドスッ」という鈍い音が響いたことを、長々と話していた正義の味方は気づかなかったようだ。
「さあ、悪党!私と勝負…って、あれ?」
ようやく、気づいたようだ。腹を押さえて倒れている悪党と、怒りの炎を右手の拳に宿している女性に。
「あんたねぇ……、ぐだぐだ言ってないで助けるんなら助けなさいよ!!」
もう、彼女の怒りは誰にも止められないようだ。すたすたと正義の味方に歩み寄ると……。
ドスッ!
強烈なパンチが正義の味方の鳩尾に入って、そのまま正義の味方は崩れ落ちるように倒れていった。

「あっ、もうこんな時間。ドラマが始まっちゃうじゃない」
もうすでに、彼女の頭の中はドラマのことでいっぱいのようだ。

とある海辺の倉庫には、悪党と正義の味方が倒れている。





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