正義の味方

第2話   正義の味方、入院。





ここは、とある病院。そのとある小児病室。今日もまた、子供の声がこだまする。
「やめてよ〜。僕のプリン、返してよぅ〜」
しかし、今日の相手は、いつもと違う。看護婦でも、いじめっ子でも、両親でもない。
「ん〜?このプリンは俺がここで拾ったんだぞぉ。だから、拾った俺のものだ」
「おい、そこの悪党!そのプリンを誰のものだと思っているんだ!それは私のだぞ!」
「あ?喧嘩売ってるのか?誰の名前も書いてないから、拾った俺のものだろ」
なにやら、聞いたことのあるような声が…。何故か病室には、女性に鳩尾を殴られたあの悪党と正義の味方がいる。どうやら、病室が足りないからと小児病室に入れられたらしい。もっとも、精神年齢はこの病室にちょうどいいが。
「もう、プリンあげるから喧嘩しないで〜」
「ほら、プリンくれるってさ。ま、俺が拾ったんだからもともと俺のものだけどな。他の人のお墨付きだ、これは俺のもの」
「少年、こんなことで挫けてはいけない。将来には、もっと大変なことがあるんだからな。君も大人になったらわかると思うが、世の中はこれよりも酷い事がたくさんあるんだからね。受験に就職、職場では上司にいびられ、遂には長年こき使われた会社をリストラ。妻には逃げられ、娘は風俗に手を出し、息子はグレる。再就職といっても僅かなお金しか入らず、終いにはホームレスになるんだ。こんなこともあるんだ、ここで挫けていては将来が思いやられるよ」
「……………」
「どうした、少年?そんな呆けた顔して」
「あんた、何を子供に変なこと吹き込んでるのよ」
「ああ、それはね……。って、ええ!?何でここに?」
「いたらいけないのかしら?その子、私の甥っ子なんだけど。二人して、何をしているのかしら?」
おや、いつの間にか病室に現れたのは、この間の女性。悪党も正義の味方も、顔が引きつっている。
「な、何って………。ボクちゃんは何も…」
どうやら、焦った時にも「ボクちゃん」になるらしい。いつ聞いても、変な一人称だ。
「そのプリンは、この子のものでしょうが!」
女性の手には、本の入ったプラスチックのカバン。それで、悪党の後頭部を一撃。悪党は、その直後にプリンを奪われたということも知らずに倒れていった。
「それに、あんたねぇ…。ドサクサに紛れて、プリンを奪おうとしたでしょ?」
「そ、そんなことは…」
「おまけに、甥っ子に変な人生設計を吹き込んだでしょ?」
「そ、それは…」
「いい加減にしなさいよ!」
正義の味方の後頭部を一撃。正義の味方は、怯えながら倒れていった。

「はい、プリン」
「あ、ありがとう。ねぇ、この二人、大丈夫なの?」
「こんなダメな大人は、ゴキブリよりもしぶといんだから。放っておけばいいのよ」
「………………」

とある病院のとある病室には、悪党と正義の味方が倒れている。
入院期間、プラス一週間。





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