水口家の秘密





綾子に気づかれないように、こっそりとメモを見る。
計画は万全。きっと、成功するはず。
上月沙耶は、ニヤリ、と笑った。
そして、綾子のほうへ振り返る。
「ねぇ、綾子」
「どうしたの、沙耶」
「今日、私の家に遊びに来るって約束したんだけど…」
「どうかしたの?都合が悪くなったとか?」
「お母さんの友達が来るんだって。だからさ…」
「……も、もしかして」
「綾子の家に遊びに行ってもいい?」
「え………」
綾子は、誰も家に呼ぼうとはしない。中学からの付き合いである私さえも。
私は考えた。何か、秘密があるに違いない。
ちなみに、綾子は押しに弱い。
「あ、明日じゃだめ?」
「明日は、私が都合悪いからダメ」
「……………………わかった。いいよ」
よし、計画成功!これで、水口家の秘密を暴くことができるわ。


そして、放課後……。
私の足取りと綾子の足取りは、正反対のものが感じられた。
私は、軽やかな足取り。綾子は、帰りたくなさそうな、重い足取り。
さて、綾子の家に着く前に、水口家のデータを整理しておこう。
一般的な一軒家(ローンは残り20年)に住む水口家は、4人家族。
父、水口喜三郎(46)。サラリーマン。窓際族ではないらしい。ちなみに、綾子曰く、理由は不明だが今日は有給をとっているらしい。
母、水口敏子(44)。専業主婦。近所付き合いが上手らしい。現在、ガーデニングに凝っている。
兄、水口俊哉(20)。大学生。母親譲りなのか、交友範囲が広いらしい。綾子曰く、「神出鬼没」。
そして、水口綾子(17)。高校生。これまた人付き合いが上手い。しかし、友人を家に呼んだことは一度もないらしい。
典型的な核家族である。どこにも秘密など有りそうにはない。
なんだかんだと考えているうちに、綾子の家に着いた。
「ただいま〜」
玄関で綾子がそう言うと、廊下の突き当たりのドアが開いた。どうやら、そこが居間らしい。
「おかえり。あら、お客さん?」出てきたのは、お母さんだった。
「はい、お邪魔します」
私がそう言った次の瞬間、家中からひやりとしたものが感じられた。まるで、殺気のような。お母さんも、開けた扉を閉めて何やらゴソゴソとしている。
もしかして、私は招かれざる客なのか?
「別に、歓迎してないとかじゃないから。もうすぐ理由がわかるから、気にしないで」
私の思ったことが分かったのか、綾子はそう言った。それにしても、綾子はなんだかすごく嫌そうな顔をしている。
それから数秒後、また廊下の突き当たりのドアが開いた。
「いらっしゃ〜い。綾子がお友達連れてくるなんて、初めてのことじゃない?」
再び登場したお母さんは、先程とは全く違っていた。ハゲのカツラに、コントに出てきそうな鼻と髭の付いたメガネ、かなり太い付け眉毛をしていて、頬には酔っ払いのような赤いチーク。
「これだから、連れて来たくなかったのよ」
「ま、お年頃ですものね」
そんな会話の間、私はというと、ただ唖然としていた。
しばらくして何とか慣れた後、綾子の部屋のある2階へと向かった。
いつの間にか殺気めいた雰囲気はなくなっていた。
階段を上がり終えると、すぐのところが綾子の部屋らしい。ちなみに、お兄さんの部屋は廊下の奥らしい。そのお兄さんの部屋のドアは開いており、部屋の中からは全身黒タイツの男がこちらを見ている。
………………!!
な、な、な、何で!?全身黒タイツ!?
「ほらー、驚いちゃったじゃない。それは止めてって言ったでしょ、バカ兄貴」
え………、えぇ!?あれがお兄さん!?
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」
えなりかずきのモノマネで、お兄さんが言い返す。しかも、結構似ている。
言い返すのを諦めたのか、綾子は無視して部屋に入っていった。私も、それに続く。ドアを閉める前にちょっと見てみたら、お兄さんは首を振っていた。ちょっと、怖い。
部屋は、綺麗に片付いていた。綾子は、ベッドに腰掛けるなり、私に言った。
「あれ、気にしないでね。我が家のルールだから。お客さんが家に来たら、変装しなくちゃいけないの」
分かる気がした。確かに、私が綾子だとしても友達は呼ばないだろう。 あ、そういえば、休みで家にいるはずのお父さんを見ていない。
「お父さんは?家にいるんじゃなかったの?」
「あぁ、きっと、新しい衣装を買いに行ってるんだと思うよ。お客さんが来るたびに、新しい変装してるから。急な来客のときには、勝手口から外に出ていつも買いに行ってるよ」
「………なるほど…」
これで、水口家の秘密がひとつ解明した。
しかし、どうもスッキリしないのは気のせいか?







あれから数日後。
街を歩いていたら男の人が声をかけてきた。しかも、結構イケメン。
と、思ったら。男の人は衝撃的な事実を言った。
「キミ、綾子の友達だよね?全身黒タイツだった、アイツの兄です」

つまり、「全身黒タイツ−黒タイツ=イケメン」。





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