2月29日

事故死編





4年に一度の、2月29日。
我等「人智を越えた者」が、唯一人間界に出れる日。
出たら、俺はまず日本へ向かう。
大都市の方が、様々な人間がいるから。
金を求める者、
愛を求める者。
自由を求める者、
束縛を求める者。
自由を求める者。
平和を求める者、
争いを求める者。
生を求める者、
死を求める者。
これらを観察するのが好きなのだ。
今日はどんな奴に会えるか、楽しみだ。
そんなことを考えていると、一人で空を見上げている男がいるのが見えた。
暗そうな感じがした。
ワケアリなようだ。
コイツに声をかけてみる事にしよう。
「お前の願いを叶えてやろうか?」
男は、ハッとして辺りを見回した。
「おい、もう29日だぞ。今さら驚くことはないだろ?」
「もう…29日でしたか…」
「そうだぜ。さ、願いは何だ?」
「今、どちらにいらっしゃるのですか?」
「ん?窓際にいるが…どうかしたか?」
「お願いします、私を殺してください!」
男は、そう言いながら土下座した。
「私、会社をリストラされて…、妻と娘を養っていけなくなりました。もう、保 険金を受け取るしか道はないのですよ!」
「だから、死ぬと?」
「ええ。ですが、事故で死なないと、保険金は降りないのです。ですから、私が 事故死する為の手伝いを二つほどしてもらえないでしょうか?代償は、私の命で 支払いますから」
「その二つの願いの内容にもよるぞ」
「私の願いは…まずは、死ぬときの痛みを無くすこと」
「もう一つは?」
「私を事故死にしてくれる人を探すこと」
「だったら、可能だ。だが、お釣りが出るほど代償を払いすぎだぞ。良いのか? 」
「ああ」
「交渉成立。で、お前はいつも、会社に行くふりをして出かけているのか?」
「そうですが…それがどうかしましたか?」
「車で?」
「…?はい」
「なら、玉突き事故にしよう」
「は、はい」
「明日は、いつものように出かけるといい。では、お前の願い通り、人を探して くるから、また明日」
俺は、相手が何か言ったのを聞かずに飛び去った。
そして、適当な屋根に着地する。
人探しは、コツがいるが、確実に見つけられる方法がある。
我等だけの、秘密の方法なのだ。
時間はかかるが、明日の朝までには見つけられる。
…。
……。
………。
まだ見付からない。
…。
……。
………。
コイツは駄目だ。
…。
……。
………。
やっと、該当者が一人、見つかった。
行ってみるか。
跳躍。
跳躍。
また、跳躍。
そして、到着。
意外と近かった。
家の前には、借金の取り立て屋。
なるほど、それで、刑務所に入りたかったのか。
条件に、完全に一致している。
窓から入り、話しかけてみる。
交渉、開始だ。
「なあ、刑務所に入りたいんだろ?」
男は、驚いているようだった。
俺は、続けて言った。
「もう、29日だぞ。驚くことはないだろう?」
「ああ、そうでしたか」
「取り立て屋から逃げるために、刑務所に入りたいだろ?」
「どうしようかと悩んでいるのですが…」
「事故死したい奴がいるのだが、どうだ?」
「それは、その人を殺すことになりますよね…」
「保険金のために、死にたいそうだ。事故死でないと、保険金が下りないとさ」
「ですが…」
「お前は、乗っているだけでいい。運転を始めたら、俺が代わりに運転する。そして、途中でお前は居眠りをする。その間に、事故を起こす」
「でしたら、代償は…?」
「特別に、無しでいい。事故死する奴にもらいすぎたからな」
「は、はい…」
「では、明日の朝、また来るからな」

そして、運命の、朝。
「では、行くぞ」
車の運転は初めてだが、難しくはないようだ。
男は、不安げな表情を浮かべている。
前方に、事故死する男の車が見えた。
「あの人ですか、事故死する方は…」
懺悔でもするかのような声で、男が言った。
「そうだ。だから、もうそろそろ寝るといい」
そういった次の瞬間に、男は寝息を立て始めた。
催眠術を使ったのだ。
寝たのを見届けて、前の車に移動する。
「死ぬ覚悟はできたか?」
俺は、ふざけて聞いてみた。
「できているから、こういうことを願ったのですよ」
予想通りの答えだ。
「さあ、もうすぐ追突されるぞ」
そういった次の瞬間、車にすごい衝撃が走った。
願い通り、痛覚を遮断する。
男は、微笑み、そして、死んだ。

これで、二人の男の願いは叶った。
今までで、一番長い夜だった気がする。
だが、こんな変な体験もできるから、大都市は好きなんだ。
さて、次はどこへ行こうか。





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