2月29日

お金様編





日付が変わった。
いよいよ、待ちに待った2月29日になった。
人智を超える者との交渉ができるチャンスの日。
今まで何人もが叶えられなかった願いに挑むチャンスだ。
大丈夫、俺にならできるはずだ。
今、俺は、自分の会社の社長室に一人でいる。
そう、俺は社長だ。
自分の全ての願いをここまでは叶えてきた。
そして、世界の覇者となるための、最後の願い。
それだけが、まだ叶えられていない。
「なあ、あんた。願いを叶えてやろうか?」
どこからか、声がする。
姿は見えない。
いよいよ、来たか。
俺の願いを叶える時が。
「お前が、四年に一度出てくる悪魔か?」
「悪魔とは、失礼な。俺たちは、そんなにひどいやつではない」
「それは、失礼。で、どんな願いでも叶えていただけるのでしょうか?」
「もちろん。ただ、代償が必要だけどね」
そんなことは、承知済みだ。どうやら、本物らしい。
「それでも、いい」
「で、あんたの願いは?」
「世界中の貨幣・宝石・貴金属類などを私のものにしたいのだが…」
「さすがにそれは、やめておいたほうが良いぞ。今まで、その願いを叶えたやつはいない」
「私は、絶対叶えてみせる」
「自信ありそうだな…。それでいいんだな?」
「ああ、これでいい」
「一応、止めたからな」
「釘を刺さなくても良いだろう?これでいいと言っているだろ」
「分かった。でも、願いが大きすぎるから、先に代償をもらうことになるよ」
「それでもいい。早くしてくれ」
「だったら…まずは片腕…」
その言葉とともに、右腕が引きちぎられた。
言葉に言い表わせないほどの痛みが走った。
「まだ足りないか…もう片腕」
両腕がなくなった。
たとえ両腕がなくなっても、金が手に入るなら安いものだ。
そう言い聞かせて、痛みをこらえる。
「まだまだ足りないな…両足も」
足がなくなり、地面に転がった。
目の前には血の海が広がり、手と足が転がっている。
これで、代償も払い終えただろう。
「まだか…胴体も…」
ちぎられる音がして、胴体が目の前に転がる。
首を切られてもまだ一瞬生きているということを聞いたことがある。
しかし、なぜまだ生きている?
なぜ、こんなに普通に考えることができる?
「やっぱり、魂ももらわなきゃ」
嘘だ。
俺なら、できるはずだ。
やはり、こいつは偽者だ。
「本物だよ。それに、人間にはこの願いを叶えることはできないだろうな、一生」
なぜだ。できるはずだ。俺なら。
「願いの規模が大きすぎるから、無理。そろそろ時間だから、バイバイ」
最後に頭の中をよぎったのは、大量の金に埋もれる自分の姿だった。





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