管理人の山浮さん

ドミノ





私の住んでいるアパートの管理人・山浮さんは少しおかしい。
いや、かなりおかしいのかもしれない。
家賃や人あたりは普通である。文句のつけようがない。
ただ、やることが少し変わっているのだ。


ある日の朝、私が玄関から出ると、ドアのそばに山浮さんがいた。
「おはようございます」
「ああ、おはようございます。いってらっしゃい」
よくある挨拶を交わす。ここまでなら、誰も山浮さんを変な人とは思わないだろ う。
だけど、山浮さんはただ者ではない。
今日は何をしているのか、私は見てみる。
山浮さんはずっとしゃがんだままで、何かを並べている。それは、通路の向こう からずっと続いている。
「…ドミノ倒しですか?」
私は聞いてみた。
「ええ。このアパート内で、どこまでできるかやってみたいと思いましてね。少 しの間、ご迷惑をおかけします」
「いえいえ、お気遣いなく。どこまでできたのか、今度教えてくださいね」
「分かりました。でも、なかなかうまくいきませんよ。強い風が吹けば、倒れて しまいますからね」
私たちは、少し笑った。
「では、いってきます」
「いってらっしゃい」

残業のせいで、私が帰ってきたのは日付が変わる頃だった。
山浮さんが、通路の端にしゃがんでいる。
どうやら、やっと通路の端から端までできたらしい。
よくここまでやったなと感心した時、強い風が吹き抜けた。
軽快な音をパタパタと立てて、ドミノがどんどん倒れていく。
私は、倒れていくドミノをただ眺めていた。山浮さんも、ただ眺めていた。
「ああ、倒れてしまいましたね。また、一からやり直しです。でも…」
「でも?」
「いい音だったでしょう?」
「ええ」


山浮さんは、変わっている。
そこに住んでいる私たちも、変わっているのかもしれない。





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