夢の中へ





今日は、俺にとってラッキーデーだ。
講義は早く終わるし、暇つぶしに入ったパチンコ屋で大当たりするし。
こんな時には、鼻歌でも歌いたくなるものだ。
「夢の中へ 夢の中へ 行ってみたいと思いませんか〜♪」
「Fu Fu Fu〜♪」
背後から、俺が一番歌いたかった部分を歌う声がした。
振り返ると、男が立っている。40代後半から50代の、いわゆるオッサンという部類だ。
だが、驚いたのはそれよりもオッサンのさらに後ろ。今、俺の通ってきたはずの道がない。振り返って進んでいた方向を見ても、通っていたはずの道がない。
白い地面に、クリーム色の一本道。地面には何も生えておらず、何の生物もいない。
「な、何だココは?」
「夢の中」
「は?」
「だから、夢の中」
「………」
ドッキリか何かか?何だよ、夢の中って。
「ドッキリでも何でもない。夢の中だ」
心の中が読まれた?
「そう、読んだ」
「何で読めるんだよ?」
「さあ?」
「…………。そんなことより、早く元に戻せよ」
「元に?」
「現実に、だよ」
「無理」
「何でだよ。夢の中に連れてくることができるんなら、逆もできるはずだろ」
「ココへ来たのも、現実に帰るのも、偶然。だから、無理」
「偶然かよ」
「そう。ちなみに、これで3人目」
「いつから数えて?」
「私が生まれてから」
「いったい、何歳だよ」
「1000と39歳」
「で、前の人は何日で戻れたんだ?」
「1人は15年と168日で、もう1人は3分」
「……………」
「ま、私の家が向こうにあるから、ゆっくりしていけば?」
「………」

あれから、何十年が過ぎただろうか。
「26年だ」
最長記録を更新中だ。
「おめでとう」
いつになったら帰れるのだろうか。
「さあ?」
現実では、今どうなっ………。
「ああ、現実に帰ったか。26年と110日、最長記録だ。さて、今日からまた1人か」

夢の中へ行ってみたいと思いませんか?





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